東京高等裁判所 昭和51年(う)1000号 判決
被告人 千野義雄
〔抄 録〕
職権を以って検討してみるのに、原判決は、原判示第二事実につき、被告人が原判示宮川信号設備株式会社に工事代金合計九八八、四四〇円を支払う義務があったのに、群馬県方面に逃走してこれが支払をせず、同額の財産上不法の利益を得たことを刑法二四六条二項の詐欺罪に当るものと判示している(もっとも、原判決は、これを騙取しとも表現しているが構文全体を読めばこの騙取し、とあるのは財産上不法の利益を得たとの意味に解すべきである)のであるが、いわゆる二項詐欺罪が成立するためには相手方の処分行為を必要とすることは判例上確定したところであり、原判決が、被告人において原判示宮川信号設備株式会社に対する原判示の債務を支払わず同額の財産上の不法の利益を得たとするためには、原判示の如く被告人が群馬県方面に逃走したということだけでは二項詐欺罪の成立要件を充足せず、相手方たる宮川信号設備株式会社の側において右債務につき何らかの処分行為をしたこと、すなわち、被告人において処分行為をさせたことが必要である。然るに、原判決はこの点につき毫も判示することなく、また、引用の証拠と対照して原判文を読んでみても、右処分行為の点についてはこれを明らかにすることができないので、原判決は、原判示第二事実につき理由不備若しくは法令の解釈を誤った違法があり、原判決はこの点においてとうてい破棄を免れないものというべきである。
(谷口 金子 小林)